資料NO. : 
資料名  : 明成社版・高校日本史B教科書など2001年度検定についての見解
制作者  : 子どもと教科書全国ネット21
制作日  :  2002/04/09
 2002年4月9日、文部科学省の検定に合格した明成社版・高校日本史B教科書は、現在使用されている『最新日本史』(国書刊行会)の改訂版である。『最新日本史』は、『新編日本史』(原書房)の改訂版として94年3月に文部省検定に合格している。『新編日本史』は、日本を守る国民会議(現日本会議)が作成したもので、当時、「復古調教科書」「天皇の教科書」などと批判され、外交問題になり、しかも、高校教科書は学校ごと採択であり、現場の教師が選ぶために、ほとんど採択されず、最高時(1989年度)でも9357冊(0・01)で、以後はジリ貧になり2001年度用2682冊(14校)、2002年度用2117冊(13校)、と消滅寸前の状況である。そのため、95年度用の改訂時(93年度検定)に原書房が撤退して国書刊行会が発行を引き受け『最新日本史』として出版してきた。今回8年目振りの改訂にあたって、国書刊行会もさすがに大幅赤字の同書を投げ出してしまい、明成社が新たな発行者として検定を申請した。『新編日本史』発刊の折には、多くの歴史学者やジャーナリストが(これを)批判する図書や雑誌・新聞原稿を書いたが、『最新日本史』の発刊については、採択部数もほとんどないこともあって、多くは無視してきた。しかし、96年以来の教科書「偏向」攻撃、「つくる会」運動を背景に、日本会議と「つくる会」が一体となって、高校現場への採択増大を働きかける方針を掲げて活動していることを考えると、この教科書を無視することはできない。そこで、歴史研究者・教育者の協力を得て、あらためて現行の『最新日本史』と明成社の申請図書、検定意見や修正内容を検討し、その問題点を明らかにした。
 以下、特に問題にすべき何点かについてまとめ、この教科書が高校生用の歴史教科書としていかにふさわしくないかを具体的に明らかにする。なお、書名が判明していないので以下では、明成社版または現行本の『最新日本史』と表記する。
 
明成社版・高校日本史B教科書の問題点

1.天皇中心の歴史は一層強まっている
 (1) 年表を削除して、皇統譜による「皇室系図」と「年号(元号)一覧」を掲載。
    小学校・中学校・高等学校の歴史教科書のほとんどには巻末などに年表があるが、明成社は
   今回あえて年表を削除している。削除された年表に代わって挿入されたのは、「皇室系図」と「年
   号(元号)一覧」である。ほとんどの高校の日本史教科書には、巻末に数頁を割いて年表が掲載
   されている。年表には、時代区分、年代、天皇、将軍または総理、政治・経済・社会、文化、世界
   などの欄が設けられており、歴史の移り変わりを総合的に理解するのに不可欠の要素である。
   ところが、明成社日本史は、年表の代わりに皇室系図と年号一覧を載せているのである。歴史
   を総合的に理解しないで、天皇の歴史だけ学べばよいと主張しているようである。

 (2) 皇統譜による皇室系図の問題点。
     1889(明治22)年の皇室典範に基づいて1926(大正15)年に公布された皇統譜令、また戦後新
     たに制定された皇統譜令は、日本の前近代史の学習には不適切な部分がある。
     ・ 神武天皇以降九代の実在しないことが明白な架空の人物を、実在した天皇と同格に扱って
      歴代の順序を数えている。
     ・ 『日本書紀』で即位していないことが明白な大友皇子を、『大日本史』などの後世の解釈に
      よって、明治天皇が1870(明治3)年に追贈した弘文天皇という名称で、歴代に数えている。
     ・ これとは逆に、後醍醐天皇から譲位された光厳天皇は、明白な天皇であるにもかかわらず
      歴代に数えられず、別系統の北朝の第1代にされている。
    このように、皇統譜による歴代順の数字は、史実と伝承を区別しない、あるいは史実に基づか
    ない、誤った歴史の見方を教えることになるので、教科書では採用していない。皇統譜を採用
    しているのは、「つくる会」の扶桑社版と明成社版だけである。

 (3) 伊勢神宮の本殿は法隆寺よりも古いのか。
    明成社日本史は、古墳時代で伊勢神宮・出雲大社の本殿を説明し、つぎの飛鳥時代で飛鳥
   寺・法隆寺の創建について説明している。
     しかし、飛鳥寺は596(推古天皇4)年に塔が完成し、法隆寺は607(推古天皇15)年に完成し
   た。このような仏教寺院の建築に影響されて、これまで山や岩石などの自然物を神として祭っ
   てきた斎場に神社が建てられるようになった。出雲大社の造営は『日本書紀』によれば659(斉
   明天皇5)年であり、伊勢神宮の造営は『大神宮諸雑事記』によれば690(持統天皇4)年のこと
   である。飛鳥寺・法隆寺の創建は飛鳥(文化)時代であるが、出雲大社・伊勢神宮の造営はつ
   ぎの白鳳(文化)時代である。
     このような詳しい事実を知らない高校生がこの教科書を読めば、日本では仏教寺院の建築
   よりも神社建築の歴史のほうが一時代古いのだと、史実とは逆に誤解してしまう。生徒には、
   史実と違っていてもよいから、天皇にかかわる神社の歴史を外来の仏教よりも古く見せたかっ
   たのであろう。神道を異常に重視して史実を歪める特定の意図によるものであろう。(神道の
   異常な重視は近現代まで同じである)

 (4) 天皇中心の歴史叙述という点では、中・近世では「つくる会」教科書をはるかに凌いでいると
    いえる。
     例えば、中世史だけで、後白河から後陽成に至る31代の内、17人の天皇が本文・注・エピソ
   ードに登場する。最も人物が多く登場する山川でさえ8天皇名である。また、天皇をもりたてた功
   臣をやたらに顕彰したがっている。例えば「節義を守った楠木一族の生涯は、長く語り継がれ、
   後世の日本人の心に大きな影響を与えていくことになった」などと書き、南朝方の人物名を21名
   も羅列している。

2.大日本帝国憲法や教育勅語に価値をおき、憲法・教育基本法を敵視する

   「つくる会」教科書同様に教育勅語を全文掲載して高く評価している。大日本帝国憲法はわが国
  の伝統をふまえたものと強調している。他方、新憲法の意義、国民の受けとめ方についてはまった
  くふれていない。 「GHQの命令によって教育勅語の失効排除決議が国会でおこなわれ」と書いて
  いるが、これは史実の歪曲である。失効排除決議は国会議員の自発的な意志で行なわれたも
  のであり、当時の衆・参議員を侮辱する記述である。 全体的に「つくる会」教科書と同様に、憲
  法・教育基本法の理念に反する内容であり、憲法・教育基本法 を敵視する歴史教科書といえる。

3.侵略戦争を正当化するため、中国・韓国を敵視する、アジアの国々・人々と仲良くできない
 子どもを育てる教科書である

 (1) 秀吉の朝鮮出兵を侵略とは捉えないで、イスパニアやポルトガルが明を征服しようという野望
    を挫く ためなどとしている。ヨーロッパ人の領土的野心をことあるごとに強調し、秀吉の朝鮮侵
   略を防衛的行動であるかのように描いて正当化している。また、侵略の具体的実相については
   何も書かず、文化略奪にも触れていない。

 (2) 韓国併合を「日韓併合」と表記し、あたかも対等の合併であったかのように描こうとしている。
     植民地支配の事実はまったく触れていない。わずかにアジア太平洋戦争末期の徴兵制施行
   に関する 注で皇民化政策に触れるのみである。しかし、この注で現行本にあった、「民族の誇り
   に深い傷をあたえていた」という記述は新版では削除している。文部科学省はこれに意見をつけ
   ていない。また、朝鮮政策では、新たに融和策、開発を強調して、植民地支配を正当化(良いこ
   とをした)している(これは検定によってうすめられている)。朝鮮人民の3・1独立運動は「3・1事
   件、万歳事件」(と)表記し、その弾圧の実態もわずかに「軍隊が出動し、流血の惨事」と書くの
   みである。朝鮮・台湾の皇民化政策について、現行本にある日本語を教え、姓名を日本式に改
   める、という記述を新版では削除していたが検定で復活させられている。

 (3) 日中戦争については、「つくる会」教科書同様に中国側に非があるかのように描こうとしてい
    る。満州に関し、中国が日本の保持する既得権益回収に乗り出し、権益の被害が増加したと、
    日本の被害を強調し、満州事変を正当化している。新版では「満州では反日運動が激化し在
    留邦人や権益の被害が続出した」と書き加えている(検定で「激化し」は「高まり」に、「続出」
    は「増加」に修正)。さらに、「中村大尉事件」などを強調している。日本軍の駐屯権は認めら
    れていた、などと日本の正当性を主張し、汪兆銘政権を注から本文化して、正規の政権であ
    るかのように美化している。
     第2次上海事件について、新版では、派兵を「居留民保護のため」と強調し、原因について、
    「上海で海軍士官が中国軍に殺害された事件がおこり(大中山中尉事件)、日本は派兵し、
   両軍の戦闘となった」と書いて原因が中国側にあると断定している。この部分は、86年当時、
   検定合格後に「上海で海軍陸戦隊の士官の殺害がおき」とあったのを、外交問題化して、当
   時の政府・文部省が削除させた記述である。これについて今回、文部科学省は検定意見をつ
   けていない。
    日中戦争について、戦前の国定教科書同様に「日華事変」と表記し、(日華事変、日中戦争)
   と併記したところでは、わざわざ「日華事変」をゴシックにしている。さらに、日中戦争について
   「戦場となった中国各地の人々のこうむった苦しみは悲惨であり、事態は深刻であった」を削
   除するなど、わずかにあった加害記述もうすめられている。この「人々がこうむった苦しみ」と
   いうのは、前記同様に、86年検定合格の「民衆の苦しみ」という表現を再修正で加害の意味
   を入れて表記させたものである。中国での加害については、現行本同様に注で南京事件が
   簡単に書かれているのみである。

 (4) アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」と記述し、侵略戦争であることを否定している。
    「大東亜戦争」の戦争目的を批判を含めずに本文化している。大東亜会議、大東亜共同宣
   言を重視して書いている。新版で、東南アジア占領地支配について、「独立を願って日本軍
   に協力した人々も多かった」を追加していた。これは、「つくる会」教科書と歩調をあわせるも
   ので、侵略戦争ではなくアジア解放戦争だったいいたい意図であったが、検定によって削除
   された。東南アジア・太平洋地域の住民への加害の事実はまったく無視している。
   アジア諸民族の「戦火の惨害」の責任がどこにあるかをあいまいにし、この戦争のおかげで
   独立したと思わせる記述をしている。これも「つくる会」教科書と同様である。

 (5) 戦時下の国民生活の実態にもほとんどふれずに、国民は「窮乏生活にたえて、勝利のため
   に協力した」と一方的に記述。反戦・厭戦の動きは無視し、国家への奉仕の事実のみを強調し
   ている。沖縄戦については、「県民が一丸となって抗戦し、中学生や女学生も学徒隊として戦
   列に加わった」とし、さらに学徒隊の「勇戦」ぶりを強調し、日本軍による住民虐殺や「捨石作
   戦」の事実は無視されている。これも「つくる会」教科書と同様である。
    以上のように、日本の侵略戦争を肯定・美化し、アジア諸国を敵視し、排外主義を煽る内容
   であり、とうてい国際社会では通用しない、日本を国際的孤立化に導く教科書である。

4.「つくる会」教科書と同じ立場・内容の教科書である

  すでに、前記の中でも指摘したように、歴史の事実の歪曲、大東亜戦争などの用語、大東亜会議・
汪兆銘・教育勅語・沖縄学徒隊・アジアの独立の扱いなど、「つくる会」教科書の問題点と共通して
いる。また、戦争そのものを肯定し、「戦争をする国」づくりをめざすということも共通している。
まさに、「つくる会」教科書の高校版というべきものである。

5.歴史研究を無視し、高校生の教科書としてふさわしくない

 すでに指摘したように、全体として歴史研究の成果を無視し、勝手な思い込みで歴史を叙述してい
る。また、高校生にとっても理解不能な非常に抽象的な表現や難解な用語が随所に出てくる。
高校生を無視した教科書である。しかも、一面的な解釈をおしつけて高校生の歴史認識を歪める
内容になっている。受験を意識してか、十分な考慮なしでやたらに多くの事項や人名を盛り込んで
いるが、そのために、随所に矛盾した記述が目に付く。結果的に受験にとっても不適な教科書にな
っている。

 (日本軍「慰安婦」の記述が消えた問題について)
 中学校歴史教科書で、日本軍「慰安婦」の記述が大幅に減少したが、高校新教科書でも一部に
この傾向が見られる。日本史教科書には明成社版以外はすべて「慰安婦」を記述しているが、
現行本で「慰安婦」を記述していた教科書のうち、世界史で1点(帝国書院)、現代社会で2点
(教育出版、桐原書店)、倫理で1点(教育出版)が「慰安婦」をなくしたことが確認されている。
未確認であるが、地理でも削除した会社があると思われる。
  これは、出版社による「自主規制」と思われるが、この間の教科書攻撃が背景にあることは明らか
である。国際社会では、例えば昨年8月の国連人権小委員会決議や、12月の女性国際戦犯法廷の
ハーグ最終判決での日本政府への勧告のように、「慰安婦」を教科書に書いて記憶にとどめる教育
をすすめることが求まられている。削除した出版社に対して抗議すると共に、猛省を促したい。

 【資料として】
 『新編日本史』をつくることは「国民会議」結成時からの方針であった。黛敏郎運営委員長(当時)
は、「国民会議」総会の基調報告で、昭和天皇在位60年奉祝の記念事業として歴史教科書を発刊
することを強調し、次のように述べている。
 「日本を守るためには物質的に軍事力で守る防衛の問題と、更に心で、精神で守らなければなら
ない教育に関係した二つの大きな問題がございます。この二つを統合する大きな問題として憲法が
ありますが、国を守る根源は、つまるところ国家民族というものをいかに認識するか、換言するならば
天皇という御存在を如何に認識するかということが大切だと思います」「私共が憲法改正を唱えるに
あたって、まず国家意識、ひいては天皇につながる国体というものをまずはっきりと確立するところか
ら手をつけなければならないと考える次第です。つまり、憲法、防衛、教育の問題は、まず正しい国家
意識と言うならば正しい愛国心の確立と言う根源的な心の問題から入らなければならないと思いま
す」(「国民会議」機関誌『日本の息吹』第2号84年7月15日)。
 『新編日本史』が「天皇の教科書」といわれたのは、その内容と共に、昭和天皇在位60年を奉祝する
ために発刊されたためである。
 「国民会議」の84年度国民運動基本方針を提案した副島廣之事務総長(当時)は、「教科書編纂事
業等に取り組む中で、憲法改正の思想的潮流を形成して行きたい」と述べている(『日本の息吹』第2
号)。高校歴史教科書の発行は、天皇中心の国家体制をつくる憲法改悪への「思想的潮流の形成」と
位置付けられていたのである。憲法、防衛、教育を同じ課題として、まず、国家意識=愛国心を培うた
めに歴史教科書の発刊が必要だということである。「国民会議」は、高校日本史教科書を発行する意
義について、次のように説明していた。
 「(一)偏向教科書の批判に止まっていた従来の反省を踏まえ、我々が目指すべき教科書を自らの
手で編纂して内外に示す。/(二)良識ある教科書の配布運動を全国に広げ、父兄住民を中心とした
国民の教科書是正の世論を喚起する。/(三)今回の教科書の編纂に関しては、政治経済社会など
の発展段階に重きをおいた記述から、日本人の精神文化の流れに着目した記述を試みる。/これま
で、生徒に正しい歴史を教えようと思っても実際使用出(ママ)きる教科書がなかったのが実情で、そ
うした現場の要望に応えうる教科書を作成し、教科書是正の第一歩とすべき構想をすすめています」
(『日本の息吹』創刊号84年4月15日)。

 以上のようなことは、「つくる会」が中学校歴史教科書をつくるにあたっての考え方と共通している。
つまり、「つくる会」の教科書と運動は、「国民会議」の『新編日本史』という高校日本史教科書づくり
と普及運動を10年後に中学校版として行なったということだったのである。「つくる会」が目新しさは、
剥き出しの右派組織ではなく、学者を中心とした見せかけの市民組織を装い、学校採択ではない
広域・共同採択制度の中学校ということに着目して、政治家と地方議会を使って教育委員会に圧力
をかけ、採択しシステムを有利に改悪させて採択をとろうとしたところにあった。また、『新編日本史』
が検定によって初期の記述を大幅に修正させられ、中国・韓国からの抗議と中曽根康弘首相(当
時)の強権発動で検定合格後にも38項目も再修正させられた(詳しくは『教科書レポート2002』の
拙稿参照)「教訓」に学んで、政治的圧力や「産経新聞」などマスメディアを使って、「外圧反対」
「政府は介入するな」などのキャンペーンを行ない、検定によっても初期の意図が残るように工作し
て成功したことだった。

 新版『最新日本史』の採択活動
 明成社は、『バイリンガル日英・再審「南京大虐殺」−世界に訴える日本の冤罪』『新憲法のすす
め』『私たちの美しい日の丸・君が代』など日本会議関係の図書を出版するためにつくられた出版社
である。日本会議のホームページによると、明成社は日本会議の推薦図書を扱う「提携団体」と位置
付けられていて、住所も日本会議と同じであり、東京目黒区青葉台の同じビルの同じフロアに事務所
がある。郵便受けは、日本会議・明成社と日本青年協議会が同じものを使っている。
 日本青年協議会(代表・椛島有三)というのは70年代初頭に、現日本会議事務総長の椛島有三や
「つくる会」副会長の高橋史朗などが結成した右翼組織で、憲法を改悪して大日本憲法体制に戻し、
天皇を中心とした日本をつくる、そのために青年・学生、特に青年教師や教育系学生を右翼運動に
引き込むことや教科書の発行をめざして活動している。メンバーの多くは、「自由主義史観」研究会、
「つくる会」に参加している。
 明成社社長の石井公一郎(ブリヂストンサイクル元会長)は日本会議副会長で「つくる会」の熱烈な
賛同者、教科書改善連絡協議会副会長、石原慎太郎都知事のブレーンなどの顔をもつ人物である。
周知のように日本会議は改憲・翼賛団体であるが、2001年12月10日の常任理事会で、第3代目の
会長に前最高裁長官の三好達が就任した。三好は、最高裁長官在任中の97年4月、愛媛玉串料
違憲訴訟の大法廷判決で、可部恒雄判事(注1)と二人だけ合憲判断を書き、沖縄米軍基地建設を
めぐる土地収用法訴訟では原告・沖縄県の敗訴を言い渡した人物である(注2)。長官在任中から
憲法をないがしろにした人物であるが、それにしても一応は「憲法の番人」である最高裁長官の任に
あったものが、改憲組織の会長に就任するところに今日の日本の憲法、民主主義の危機があるとい
える。日本会議は付属機関として、新憲法研究会(代表、小田村四郎副会長)、政策委員会(代表、
大原康男常務理事)、国際広報委員会(座長、竹本忠雄代表委員)、日本教育会議(座長、石井
公一郎副会長)、日本女性の会(代表、安西愛子副会長)を設置して活動している。
小田村・大原・石井は「つくる会」の賛同者である。また、日本会議を全面的にバックアップし連携す
る超党派の日本会議国会議員懇談会(会長・麻生太郎自民党政調会長、会長代理・中川昭一日本
の前途と歴史教育を考える若手議員の会会長、幹事長・平沼赳夫経済産業大臣)がつくられ、衆参
232名の議員が参加している(2001年3月現在)。同懇談会は、「歴史・教育・家庭問題」(座長、高市
早苗衆院議員)、「防衛・外交・領土問題」(座長、安倍晋三副官房長官)、「憲法・皇室・靖国問題」
(座長、鴻池祥肇参院議員)の三つのプロジェクトを設けて活動している。

 日本会議は1500万円の採択活動資金の募金に取り組んでいる。
 日本会議は2002年の採択で『最新日本史』の大幅な採択増をめざそうとしている。しかし、高校
教科書は学校ごと採択であり、現場の教師が選ぶために、2001年の中学校の教科書採択のよう
に、国会・地方議会議員や文部科学省を動かして採択制度を有利に改悪したり、政治的圧力を使
って教育委員会に働きかけるなどの方法がないため、右派勢力は「高校の教科書採択権は学校
長にあって現場教師にはない」などというキャンペーンを展開しはじめている。東京都のように石原
慎太郎知事の教育行政によって現場教師が学校運営から排除され、校長の権限が異常に強めら
れているところでは、校長に採択権があると主張することによって、この歴史を歪曲する教科書が
採択されやすくするという「戦略」だといえる。
 日本会議は、2001年3月の総会で「来年4月からの本格的採択活動を控え、本年度から、学校長、
日本史担当教諭への個別働きかけを進める(高等学校は学校長が採択権者である)」と言う方針を確
認している。日本会議の関係者は「昨年、中学校の『新しい歴史教科書』が話題を呼んで、教科書採
択に関心をもつ人の裾野が広がっている。高校教科書でも世論を喚起したい」(「産経新聞」2002年
3月2日)と語っている。これに呼応して「つくる会」は、この『最新日本史』教科書の採択活動に取り組
むことを決めている。「裾野が広がった」というのは、日本会議と採択活動で共同する陣営が、「つくる
会」・教科書改善連絡協議会や自民党などの教科書議員連盟の政治家に広がったということのよう
である。(敬称略)

 (注1) 可部は家永教科書裁判第1次訴訟の最高裁第3小法廷の裁判長として、文部省にそれなり
    の根拠があれば(「看過しがたき過誤」がなければ)検定はすべて合法という、家永裁判史上
    最悪の判決を出した裁判官である。

 (注2) 三好の就任にあたって日本会議は、三好が「就任を快諾した」と紹介し、「愛媛玉串料訴訟
    の最高裁判決では、多くの裁判官が違憲判決を出す中、靖國神社が戦没者慰霊の中心施設
    であることと国や地方公共団体が慰霊を行なうことの重要性を説かれ、かかる公金の支出は
    憲法違反にあたらないという、堂々たる反対意見を述べられた」「憲法、教育基本法の改正と
    いう重要な時期を迎えた今日、司法界のリーダーをお努めになった三好会長が(改憲のー票)
    国民運動の先頭にお立ちいただく」と、その役割が憲法・教育基本法改悪運動のためである
    ことを強調している(『日本息吹』2002年1月号)。なお、三次の後の最高裁長官には千種秀夫
    判事が内定していたが、千種が愛媛玉串料訴訟で違憲判決を書いたために、この訴訟時に
    はいなかった最も新参の山口繁判事を長官にしたといわれている。根っからの反憲法的人物
    といえる。

子どもと教科書全国ネット21
〒102−0072 東京都千代田区飯田橋2−6−1 小宮山ビル201
Tel:03−3265−7606 Fax:03−3239−8590

資料目次へ戻る